島コラム vol.1:ある高校生の10年の記録
東京都立広尾病院 内視鏡センター長 小山茂
今は昔、とある島に住む高校生が当院消化器内科に入院しました。
夏の終わりから腹痛と下痢が続き、対症薬でも改善に乏しいため精査の目的でした。2日間の入院でX線画像検査や内視鏡検査を実施し、東京都の難病指定にもなっている疾患の一つが疑われました。内服治療を開始し、中間テスト終了後の再入院で確定診断に至り、地元で経過観察となりました。
その後しばらくは飲み薬の継続で安定傾向でしたが、翌年秋からまた具合悪くなったため、再度入院の上点滴薬の治療が導入されました。当時国内で維持療法の適応が取得されたばかりの薬剤でしたが、メーカー担当者の現地サポートもいただき、紹介元で8週毎の維持療法が始まりました。導入後の内視鏡再検ではきれいに治癒した画像が確認できました。
それから5年後の春、他県の総合病院からの紹介状を持参して、久しぶりに当院外来を受診されました。高校を無事卒業し、島を離れて大学に進学、そして卒業後は都内に就職し社会人のスタートを切っておられました。それまでの間、治療をずっと続け安定した経過でした。
当院での維持療法は、新生活で色々と大変な面もあっただろうと思いますが、外来の治療室できちんと継続いただき、経過上特に問題ありませんでした。
そして4年後の春を前に、出身地の役場の職員として帰島することになったお話をいただきました。現地に事前情報を送り、紹介状と画像の資料をお渡ししました。生まれ故郷での治療は10年ぶり。「引き続き島の医療機関をよろしくお願いします」とお伝えしたところ、前向きな返事をきちんと返していただけたのが清々しく、印象的でした。
島についてのコラムを引き受けるにあたり、まず頭に浮かんだのが彼のことでした。連絡したところ、今も問題なく治療を継続されているとのこと。掲載についてのお願いもご快諾いただきました。
お大事に。そして今後ますますのご活躍を祈ります。
〔東京都立広尾病院広報委員会発行 広尾病院だより 第176号(令和元年6月発行)収載〕
*同コラムは東京都立広尾病院より掲載許可を賜り、転載しております。
*Profile/小山茂(こやましげる):1986年自治医科大学医学部卒業後、