島コラム vol.9:夜の直降り

東京都立広尾病院 内視鏡センター長 小山茂

もう10年以上前になりますか。あれは、さすがに初めての光景でした。

救命救急センターの当直で某島から緊急搬送の依頼を受けました。前月から夜間の屋上ヘリポート使用が認められており、基準にも該当する容体でした。「直降り(じかおり)」の方針で動き、各方面に連絡して屋上に上がりました。天候はまずまずで風も弱く、夜景も一応目に沁みました。

40年前に今の広尾病院が開設され、翌年屋上へリポートの運用が始まりました。年来近隣の騒音被害への配慮から、その使用は日の出から日没までに限られていました。かつて夜中のヘリコプターは海上自衛隊が出動し羽田空港へ着いていましたが、20年前から消防庁が夜も主役になり、新木場の東京ヘリポートに着陸となりました。ともに救急車で30分程度ですが、時に残念なプロセスとして記憶に残っています。

当院の幹部が周辺自治会等との調整を経て、夜間の屋上ヘリポート運用が実現したのが2008年2月でした(写真は訓練です)。

夜中に都心の屋上で仰ぎ見る機体は初めてでも、個人的には懐かしい記憶がよみがえりました。遠い昔に島で働いていた頃、現地で救急患者の搬送を要請し、島のヘリポートで容体を確認しながら機影を待ちわびた、あの暗い夜の景色と重なりました。

ほんの小さな光が見えたかと思うと、だんだん大きく音も加わり、静かな島の夜にはありえないくらいの轟音と強い風をもたらしながら、光に包まれた機体が着陸してくれる、その頼もしさとありがたさ。まさに降臨のひと時です。受け入れる側で仕事をしていても、決して味わうことのできない感触です。

冒頭の方は循環器科と消化器内科が共同で治療にあたり、元気に退院し帰島されました。同じ年に院内で開催が始まった第一回島しょ医療研究会の最初に、症例報告されました。最近の直降りは昼夜合わせて年間4〜50例位です。

周辺住民の皆様の、温かいご理解とご協力に、あらためて深く感謝申し上げます。

〔東京都立広尾病院広報委員会発行 広尾病院だより 第183号(令和3年3月発行)収載〕

*当記事は東京都立広尾病院より掲載許可を賜り、転載しております。


*Profile/小山茂(こやましげる):1986年自治医科大学医学部卒業後、東京都立広尾病院にて初期研修。「島しょ医療」を重点事業の一つに据える同院にて消化器疾患を専門に内視鏡検査・治療に従事。2012年より同院内視鏡センター長。これまで利島、神津島等へ赴任、現在も八丈島等へ定期的に訪問し、内視鏡検査にあたっている。島しょ医療研究会世話人、島嶼コミュニティ学会理事。